大学同窓会の研究第1回 【慶応大学】

大学同窓会の研究第1回 【慶応大学】

(作者紹介)

宇治郷毅(うじごう・つよし)
1943年岡山県生まれ、
1966年同志社大学法学部卒、
1968年同大学院法学研究科修士課程修了、
2003年国立国会図書館(副館長にて)退職、
2007~2013年同志社大学社会学部(教育文化学科)
および同大学院社会学研究科教授
2013年叙勲( 「瑞宝重光章」)受賞、
主著:『詩人尹東柱への旅』緑陰書房2002、
『石坂荘作の教育事業』晃洋書房2013

現在『サンデー毎日』に、ジャーナリスト田中幾太郎による「シリーズ「大学同窓会の研究」」が連載されていて、その第4弾として、2017.81320178.20号に同志社大学の校友会が取り上げられた。本シリーズは、同窓会の組織、人材、活動、社会的影響について書かれてはいるが、それらの網羅的記述ではなく、執筆者が関心をもった事項に焦点をあてているため、欠落感を感じるものがある。また各大学の同窓会の強弱、特徴などが分析されているが、これで十分とは思えぬ点もある。本シリーズの一番の欠点は、大学の理念への言及の不足とそれと同窓会(卒業生の集団)との関係、卒業生(集団)が日本の歴史の流れから見たときの傾向と果たした役割(功罪)の観点が弱い点であろう。とはいえ対象の取材がそれなりになされていて、十分なものとは言えないまでも、かなり掘り下げられた分析と評価がなされている点で、近年まれにみる同窓会論となっている。

そこで同志社校友会の場合を他大学と比較検討し、今後の在り方を考えていくための参考として、第1弾~第3弾で取り上げられている他大学(慶應義塾大学、早稲田大学、中央大学)の同窓会についても見ておきたいと思う。今回は第1弾慶応大学を紹介する。

なお本シリーズの執筆者田中幾太郎は、1958年東京生まれ。『週刊現代』記者を経て、現在フリージャーナリスト。大学、医療、企業経営問題を中心に執筆活動。著書に、『三菱財閥 最強の秘密』(宝島新書)、『慶應三田会の人脈と実力』(宝島新書)などがある。

 

田中幾太郎(ジャーナリスト)執筆の『サンデー毎日』連載

「シリーズ「大学同窓会の研究」」の紹介(第一回)

[慶応大学]

 

第1弾、慶応大学編(上)「影響力、組織力、最強の慶應義塾大学三田会の実像」、2017.129

 

(田中幾太郎による導入説明)

大学の同窓会で最強の呼び声が高いのが、慶応の三田会だ。事実、結束力や人脈、トップの輩出数など、ありとあらゆる面で他校を圧倒する。各企業に強力な組織を作り、日本経済界まで動かす。パワーの源泉はどこにあるのか?その秘密を徹底解剖する。

(本文中の中見出し)

・地域・勤務先・卒業年度で張り巡らされる塾生仲間の糸

・企業別では「三井」「三菱」が先行

・他の同窓会を圧倒する結束力

・公認会計士界でも強い三田会

(写真付きで紹介された人)

・佐藤裕紀(公認会計士三田会幹事)

・豊田章男(トヨタ自動車社長、法学部OB

・佐治信忠(サントリーホールディングス会長、経済学部OB

・西室泰三(連合三田会名誉顧問、東芝名誉顧問)

(本号で名前の挙がったその他の人)

匿名、アルファベットで登場

 

(本号の主な内容)

 

〈組織〉

1、「慶應連合三田会」

〇理事会

〇評議員会

〇地域三田会(全国各地にあり)

〇勤務先別三田会

・多くの他大学が飲み会などによる親睦会に終っているのにくらべ、三田会は「情報を共有し、仕事に生かしている」また「別の職場の三田会とも横の連絡を取り、人脈を広げている」(「」内は、田中幾太郎の文章、以下同じ)

・戦前から「三井」と「三菱」財閥内で「慶應閥」を作り、現在も「この二つの企業グループでは三田会が存在感を放つ」

・「三田会は、日本経済界を構成する重要なパーツとなっている」

・勤務先別三田会は220団体ある

・企業別三田会が拡大した理由は、「就職にある。慶応大学の学生、企業の双方に三田会の存在価値がある。」

・企業として、「三田会人脈を使った青田買いをしている」

〇職種別三田会

「公認会計士三田会」の会員数は、4607人(2016年度全国公認会計士数は28,293人)で、「驚異的な占有率だ。その理由は、41年間公認会計士試験合格者の首位を維持しているから。」、会にはヒエラルキーは一切ない。

〇各学校別三田会(幼稚舎三田会、慶應義塾普通部、慶應義塾高校)

〇各サークルの三田会

〇各ゼミの三田会

〇自宅のある各地域三田会

 

〈影響力〉

1、経済界での影響力(他大学を凌駕する)

①全上場企業社長3541人中の数

慶應は350人(約1割)(参考:東大220人、早稲田大210人、1998年までは東大がトップだったが、1999年に慶應が追い越し、以降慶應がトップを維持する)

②慶応の社長のタイプ

・115万3907社(2016年現在の株式会社・有限会社)中、慶応は日大に次いで2位(11,392社)

・同族継承(老舗企業の跡取りなど)の社長が多い(54.2%)

豊田章男豊田自自動車社長、佐治信忠サントリーホールディングス会長など

 

慶應大学編(中)、「¨経済界の王者″三田会の¨カラクリとパワー¨」2017.25

 

(田中幾太郎による導入説明)

「金融界の喫緊の課題の一つは、地方銀行の再編。そのカギを握ると言われているのが慶應義塾大学の同窓会「三田会」だ。地銀の経営陣には三田会会員が多く、熊本と鹿児島の地銀は頭取同士が同じ「年度三田会」に所属していたこともあって、首尾よく経営統合がまとまった。三田会を抜きにして地銀再編は語れないらしい。」

(本文中の中見出し)

・その存在抜きに地方銀行再編問題は語れない

・「地銀頭取三田会」の存在感

・三田会の存在が統合にプラス

・新興「不動産三田会」も成功

(写真付きで紹介された人)

・岡野光喜(「地銀頭取三田会」の発起人、スルガ銀行会長)

・故武藤信一(百貨店業界において三田会の象徴的存在であった元三越伊勢丹HD会長)

・岡川榮司(「不動産三田会」)

(本号で名前の挙がったその他の人)

 

(本号の主な内容)

1、肥後銀行(甲斐隆博頭取)と鹿児島銀行(上村基宏頭取)による合併

両頭取は、1975年商学部卒の同期であって、そのよしみで安倍政権が進める成長戦略「スーパーリージョナルバンク(広域地域金融機関)構想を先取りし、2015年10月「九州フィナンシャルグループ」を誕生させた。両頭取は、「116三田会」に属するが、これは慶應義塾が開学してから数えて116回目の卒業生ということで、絆が深いことが、この合併を成功させた、と見られている。

2、「地銀頭取三田会」が地銀再編のカギを握る

金融庁関係者は、「三田会は、肥後銀行と鹿児島銀行のみならず、地銀には慶應出身者のトップが多く、地銀105行中、約6分の1にあたる18行の頭取を占めているので、地銀再編のカギを握る」と見ている。地銀頭取三田会は、スルガ銀行会長岡野光喜(67年経済卒)の発起による。

3、「不動産三田会」の躍進

三田会の中で、業種別では不動産関係の会員が増えている。「不動産三田会」で10年前の453人から現在733人に急増。その理由は、会員も不動産業者だけに限らず大手デベロッパーの社員、関係の弁護士、司法書士、税理士を含んで、毎月定例会を開き、信頼できる仲間として、不動産情報を交換して、相互の利益を図っているからである。「関西不動産三田会」(会員数252人)、「中部不動産三田会」(43人)もある。

4、業界での三田会の影響力を期待して慶應を目指す学生もいる

この点は、「やはり三田会は他大学の同窓会とは一味も二味も違っている」。

 

慶應大学編(下)、「三田会の中の別格組織 幼稚舎三田会の華麗なる人脈」2017.212

 

(田中幾太郎による導入説明)

大学同窓化の中で最強と評される慶應義塾大学の三田会。その中にも別格の組織がある。オーナー企業の御曹司たちが数多い「幼稚舎三田会」だ。小学校から大学まで慶應なので、その絆は他の三田会より強固。日本の経済界を動かすほどの華麗な人脈がある。」

(本文中の中見出し)

・著名財界人を続々と輩出

・仲間を大切にする幼稚舎三田会

・三田会の底知れぬパワー

(写真付きで紹介された人)

・福沢諭吉(慶應義塾創始者)

・福原義春(資生堂名誉会長)

・福澤武(福澤諭吉の曽孫)

・玉塚元一(ローソン会長兼CEO

(本号で名前の挙がったその他の人)

・新浪剛史(元ローソン社長、現サントリーホールディング社長、経済学部卒)

 

(本号の主な内容)

 

1、「幼稚舎三田会」とは

・1874(明治7)創立、近代的小学校として日本最古

・8000人の会員

・「慶應愛は他の三田会とは比べものにならない」

・幼稚舎から大学までの16年間を1クラス36人で変わらず過ごす。中学、高校から入ってくる生徒が、入り込む余地はない。」

・「幼稚舎の生徒は、自分たちを「内部」、中学以降に入ってきた生徒を「外部」と呼び、明確に区別している。「自分たちだけが本当の慶應生」という意識がある」。慶應では福沢諭吉のみが「先生」とよばれ、「塾員(OB・OG)」と「塾生(現役の学生・生徒)」は基本的に平等の立場で「君」づけで呼び合うものと位置づけられているが、幼稚舎出身者の意識は独特で抜けきれないようだ。

・「幼稚舎三田会の会員は、慶応の内部でも信用が高い」

・幼稚舎では、5年生からクラブ活動を全員が始める。中でもラグビークラブは、慶応大学の名門クラブ「慶應義塾體育會蹴球部」につながり、大学卒業まで続き、卒業すると「黒黄会」に属す。幼稚舎三田会の中でも、「黒黄会の人間は別格中の別格と目される」「仕事で幼稚舎やラグビーの人脈を利用しないのが幼稚舎三田会、黒黄会の矜持らしく、それゆえ別格扱いも受けるのだろう。」

2、「幼稚舎三田会」出身者

・オーナー企業の御曹司、経済界の有力経営者が多い

・麻生巌(九州財界の雄「麻生」社長、曾祖父は吉田茂、伯父が麻生太郎副総理)

・故小林陽太郎(富士ゼッロクス元社長、学校法人慶應の評議員、理事、NTT、ソニーの社外取締役など役職多数)

・福原義春(資生堂元社長、現名誉会長、資生堂創業者の孫、経済学部卒)

・福澤武(元三菱地所社長、慶應評議員、法学部卒)

・故高橋治則(元アイ・イ・インタナショナル社長、法学部卒)、東京地検に背任容疑で逮捕され、最高裁上告中に逝去。「何より大事にしてきた幼稚舎三田会の信用もいしなってしまった」

・持田昌典(ゴールドマン・サックス日本法人社長、幼稚舎三田会と黒黄会に所属、大学3年時学生ラグビー日本代表)

・玉塚元一(元ローソン社長、現会長兼CEO、幼稚舎三田会と黒黄会に所属、元フアーストリテイリング社長、元ロッテリア会長兼CEO)