大学同窓会の研究 第2回 早稲田大学編(上)

大学同窓会の研究 第2回 早稲田大学編(上)

【作者紹介】

「宇治郷毅(うじごう・つよし)
1943年岡山県生まれ、1966年同志社大学法学部卒、
1968年同大学院法学研究科修士課程修了、
2003年国立国会図書館(副館長にて)退職、
2007~2013年同志社大学社会学部(教育文化学科)
および同大学院社会学研究科教授
2013年叙勲( 「瑞宝重光章」)受賞、
主著:『詩人尹東柱への旅』緑陰書房2002、
『石坂荘作の教育事業』晃洋書房2013」

[早稲田大学]

第2弾、早稲田大学編(上)「組織力を強化した「稲門会」の資金力」2017.312

 (田中幾太郎による導入説明(リーディング))

慶応大と「私学の雄」の座を争い続けている早稲田大。同窓会の組織力や影響力は慶応大の「三田会」が大学ナンバーワンとされてきたが、早稲田大の「校友会」も徐々に力を強めている。資金力に限ると、三田会を上回ると見られるほど。その実力は・・・・。」

(本文中の中見出し)

校友会は大学当局と一体

・会費のない三田会との違い

・カードの収入も後輩のために

・韓国校友会も後輩熱を燃やす

(写真付きで紹介された人)

鎌田薫(校友会長、早稲田大総長)

・岡本宏一(総長室長)

・梅原竜司(総長室校友課長、校友会事務局長)

・柳井正(ファーストリテイリング会長兼社長、3億円を母校に寄付)

(写真で紹介された建物など)

大隈講堂(国重要文化財)と大隈重信銅像

(図表など)

早稲田大学校友会組織図

 

(本号の主な内容)

 

1、「三田会」に追いつけ追い越せと組織力、行動力を強化」

 

  • 組織

                    

1)「早稲田大学校友会」

1885年に創立。全卒業生61万人のうち、連絡がつくのが約46万人。校友会傘下の「稲門会」登録団体数1340団体(2016年現在)

・「最近は年次稲門会や地域稲門会の充実ぶりが目覚ましく、校友会の活動にも積極的に関わる人が年々増えている」(梅原事務局長)

 

  • 地域稲門会(登録団体は全398団体)

・校友会道府県支部

各都道府県に支部として47団体、都道府県支部とは別により狭い範囲の地域稲門会が300団体ある。例えば、北海道では、「北海道稲門会」のほか「札幌稲門会」(伊藤義郎元テレビ北海道社長・伊藤組土建名誉会長)、「函館稲門会」、「根室稲門会」など15団体ある。

・東京都23区支部

東京都は各区に23団体

・東京三多摩支部

三多摩に支部として26団体

 

②校友会海外支部

「韓国校友会」と「台湾校友会」(早稲田大卒業の元留学生で組織)は、どちらも有力組織で、日韓、日台の相互理解に貢献している。

朝鮮留学生の一番人気の留学先は早稲田で、1884年から朝鮮人留学生を受け入れている。「韓国校友会」には、卒業生に有名人が多く、重光武雄(韓国名は辛格浩、ロッテ創業者)、李ピョンチョル(サムスングループ創業者)、李健煕(サムスン第二代目社長)、朴泰俊(ポスコ初代社長)などがいる。韓国校友会は早稲田への留学生に独自の奨学金を提供している。(一人当たり40万円、過去12年間に256人に)

「台湾校友会」も、有力校友会。1900年代初頭から台湾留学生を受け入れる。1960年に校友会できる。現在約400人の台湾人学部生、院生が在学。約2500人の卒業生がおり、連絡可能な校友会メンバーは約500人いる。

 

  • 海外にある稲門会(72団体)

・海外稲門会(58団体)

・海外稲門会日本支部(14団体)

 

  • 職域稲門会(304団体)

企業別稲門会(223団体)

慶應ほど企業内で学閥的な影響力をもたない。(早稲田は伝統的な校風として「群れない」があるため)また上場企業の社長数は慶應の5分の3ほどだが、傑出したトップを輩出している点では慶應に劣らない。

「ユニクロ」の柳井正(ファーストリテイリング会長兼社長、1971年政経学部卒)は、2014年大学が留学生と日本人学生の共同寮として開設した「国際学生寮WISH」(地上11階建て、収容人数872人、東京・中野)のために、ポケットマネー3億円を寄付した。

井深大(ソニー創業者、1933年理工学部卒、評議員)は、キャンパス内に「井深大記念ホール」を寄進するなど多額寄付をたびたびおこなう。

・業種別稲門会・一般(稲門弁理士クラブ、稲門法曹界、中小企業診断士稲門会、ホテル稲門会、薬業稲門会、食べもの屋稲門会など46団体

業種別稲門会・教育(小・中・高校の教職員でつくる稲門会で全国に存在。教育学部出身者が中心(35団体

 

  • 年次稲門会(281団体)

・年次稲門会(41団体)

・年次稲門会・有志(240団体)

 

  • 学部・学科・研究科稲門会(20団体)

 

  • ゼミ稲門会(56団体)

 

  • 体育会各部稲門会(45団体)

 

  • サークル稲門会(84団体)

 

  • 有志稲門会(80団体)

 

2、校友会の組織と収入の特徴:大学と一体化して推進

 

「早稲田大学校友会」と慶應大学「三田会」との大きな違いは二つある。一つは、「連合三田会」が大学から独立した存在であるのに比べ、「早稲田大学校友会」は大学組織と一体化していて、スタッフは大学職員が兼務しているところである。校友会長は大学総長が兼務し、校友会事務局長は大学の総長室校友課長が兼務している。このような在り方は全国の同窓会の中でも極めて珍しい。

第二は、会費の有無で、三田会が無料であるのに比べ、校友会は年会費5000円を徴取している。連絡のつく卒業生約46万人のうち約16万7千人が年会費を収めている。さらに納入率をあげるため、2006年度卒業生からは10年間分校友会費(割引して4万円)を4年次後期の学費に上乗せして徴収している。(卒業後11年からは毎年5000円)。2016年度収入は、会費、広告収入、積立金利息を併せて7億1千万円集めた。収入の半分近くを母校と在学生支援に使っているところも特徴。校友会が集金に熱心なのは、「校友会の目的が、卒業生同士の交流に加え、母校と在学生を支援するため」(岡本宏一総長室長)で、これが強力に推進されている。

 

3、校友会費収入の42%を母校と学生支援に使っている

 

2014年度の場合、会費収入の42%を主に優秀で学習意欲の高い学生の奨学金に使っている。

大学は独自に100種類の返済不要の給付型奨学金を設けているが、それを校友会費が支援するかたちである。

 

4、校友会費の58%は、会員向けサービス(24)の充実と同窓会活動支援(12%)及び運営費(22%)のために使用

 

1)「会員向けサービス」

最大の事業は、『早稲田学報』(1897年創刊)の発行。年6回、約17万部発行。

2)「同窓会活動支援」

  • 「稲門祭」(OB・OGならだれでも参加可能、その家族も参加可能、講演、トークショウ、音楽ライブ、ゲーム、模擬店など各種イベント、当日の「ホームカミングデー」(卒業後50年目、45年目、35年目、25年目、15年目の卒業生が招待される)を含んで約15000人参加)
  • 「校友会ウエルカムパーティ」(新たに校友会員になったものを対象の歓迎会。3月末の学部生卒業式前夜に、「リーガルロイヤルホテル東京」(大学キャンパス内にある、大学が貸した土地に建てられている)で行う。約1万人を対象に無料。最後に大学校歌「紺碧の空」を合唱して愛校心を高めるのが恒例)
  • 「年次稲門会5年祭」(卒業後5年目の卒業生が学内のカフエテリアで再会を祝す。最後に「紺碧の空」を合唱)

 

5、専用クレジットカードの発行

 

・大学校友課によって、大学では初めての試みで1989年に「早稲田カード」を卒業生、在学生、父母向けに発行。一般のクレジット会社と提携し、利用額の0.5%がカード会社から大学収入としてキックバックされる。校友会へのキックバックではないが、ここにも大学と一体化している早稲田校友会の特徴が出ている。この収入は、在学生のための奨学金として利用されるので、カード使用者は大学と一体感を持てる。